食べ物を分かち合う場所で:フードバンク活動が育んだ共感と利他心
活動との出会いとフードバンクの現場
私がフードバンクのボランティア活動に関わるようになったのは、あるニュース記事で食品ロスの問題と、それを必要としている人々の存在を知ったのがきっかけでした。何か社会のためにできることはないかと漠然と考えていた時、身近な「食」というテーマを通じて支援に繋がれるこの活動に惹かれました。
活動内容は多岐にわたりますが、主に企業や個人から寄付された食品の受け入れ、仕分け、管理、そして利用者への配布サポートを行っています。活動場所は、倉庫の一角だったり、地域の集会所だったりと様々です。最初は淡々と作業をこなすイメージを持っていましたが、現場に立つにつれ、単なる物の流れではない、人々の温かい心と、切実な思いが交錯する場所だと実感するようになりました。
食品の受け渡しから見えた心
特に印象に残っているのは、食品の配布会での出来事です。会場には、様々な事情を抱えた方が訪れます。ある時、お年寄りの女性が少し不安げな様子でいらっしゃいました。リストを見ながら、どれを受け取るか迷われているようでした。声をかけると、「どれもありがたいんだけど、食べきれるかしら」「重たいものは持って帰れないの」と、遠慮がちに話してくださいました。
その時、私は単に食品を手渡すだけでなく、その方の状況に共感しようと強く思いました。どのような生活環境で、何に困っていらっしゃるのか。食の好みや体の状態はどうか。もちろん立ち入ったことは聞けませんが、目を見て、相槌を打ちながら、少しでもその方の背景を想像しようと努めました。
「このお米は少量パックですから、ちょうど良いかもしれませんね」「このレトルト食品は温めるだけなので、調理が楽ですよ」といったように、単なる商品情報ではなく、相手の暮らしに寄り添う言葉を選ぶように心がけました。すると、女性の表情が少しずつ和らぎ、「そう、それなら助かるわ。ありがとうね」と、安心した様子で食品を受け取ってくださいました。その時の、心からの感謝の言葉と笑顔が、今でも忘れられません。
この経験を通じて、利他性とは、単に「与える」ことではなく、「相手の状況を理解し、その人のために何ができるかを考え、行動する」ことなのだと深く感じ入りました。そして、それは一方的な施しではなく、受け取る側の安心や笑顔という形で、私自身の心にも温かさとして返ってくるのだと知りました。
食品ロスを「希望」に変える現場で
また、フードバンクは食品を受け取る方だけでなく、提供する方の温かい心も集まる場所です。賞味期限が近いけれどまだ食べられる食品、規格外になってしまった野菜、家庭で余ってしまった非常食など、様々な食品が寄付されます。それらが集まり、仕分けられ、「必要としている誰か」の元へ届けられる。そのプロセスに関わる中で、私は食品ロスという「無駄」が、人々の生活を支える「希望」へと形を変える瞬間を目の当たりにします。
ある日、大量のパンが寄付されたことがありました。パン屋さんの閉店間際に受け取った、まだ温かいパンです。それを仕分けしながら、「このパンが、今夜食べるものに困っている方の食卓に並ぶんだな」と想像しました。そのパン一つ一つに、パン職人さんの愛情と、それを無駄にしたくないという提供者の利他心が宿っているように感じられたのです。そして、それを必要としている方へ届ける橋渡しができている自分に、ささやかですが確かなやりがいを感じました。
葛藤と学び、そして内面の変化
もちろん、活動には困難もあります。支援を必要としている方の多さに対して、届けられる食品の量には限りがある現実。限られた時間の中で多くの作業をこなす必要性。しかし、そうした状況に直面するたびに、「今できること」に集中し、一人でも多くの人に温かい食を届けたいという利他心が、自分を突き動かす原動力となりました。
このフードバンクでの活動を通じて、私の共感力は格段に深まったように思います。以前は「困っている人がいるんだな」と遠くから見ていただけでしたが、今は具体的な顔や状況を想像できるようになりました。そして、利他性とは特別な行いではなく、日々の小さな選択や行動の中に宿るものだと気づきました。目の前の食品を丁寧に扱い、受け取る方のことを思い、他のボランティアと協力する。その一つ一つが、誰かのためになり、巡り巡って自分自身の心を豊かにしているのです。
活動から育まれた心
フードバンクは、単に食品を配布する場所ではありません。そこは、人々の善意が集まり、分かち合いの精神が形になり、そして何よりも、人々の繋がりと温もりを感じられる場所です。この活動を通して、私は「食」が持つ根源的な力、そして、共感と利他心が人々の心をどれほど豊かにし、困難を乗り越える支えになるのかを肌で感じています。
この経験は、私の日々の生活や他の活動にも影響を与えています。目の前の人の些細な言葉や表情にも注意を払い、その背景を想像するようになりました。自分にできる小さな親切を見つけて実践することにためらいがなくなりました。活動から育まれたこれらの心は、これからも私の人生を彩り、より多くの繋がりを生み出してくれると信じています。