活動から育む心

初めての体験に寄り添う:子ども向け工作教室ボランティアが育んだ共感と利他性

Tags: ボランティア, 共感, 利他性, 子ども支援, 内面的な変化

活動の始まり:子どもたちの創造性に触れたくて

私が地域の文化センターで開催されている子ども向け工作教室のボランティアに参加し始めたのは、数年前のことです。元々ものづくりが好きで、子どもたちが自由に発想を広げる手助けができたら、という軽い気持ちからでした。活動内容は、参加する子どもたちがスムーズに作業を進められるよう、材料の準備や配付、道具の使い方のアドバイス、そして何よりも、子どもたちの「作りたい」という気持ちを尊重し、励ますことでした。

参加する子どもたちは年齢も背景も様々で、積極的に楽しむ子もいれば、初めての場所に緊張したり、うまくできないことに戸惑ったりする子もいます。私は主に、作業に手こずっている子や、どう始めていいか分からないような子たちのそばに寄り添う役割を担いました。

戸惑う手に寄り添うということ

ある日の教室での出来事が、私の「共感」や「利他性」に対する考え方を深く揺さぶりました。その日、私たちは牛乳パックを使って簡単な箱を作るという工作をしていました。一人の男の子が、何度説明しても折り方の手順を理解できず、苛立ちからか持っていた牛乳パックを握りつぶしそうにしていました。彼は顔を真っ赤にし、完全に固まってしまっています。

私は彼のそばにしゃがみ込み、「どうしたのかな?」と優しく声をかけましたが、彼は何も答えないまま、下を向いていました。彼の小さな手が震えているのを見て、私は彼が単に手順が分からないだけでなく、うまくいかないことへの羞恥心や、周りの子が楽しそうに進めていることへの焦りを感じているのだと直感的に理解しました。それは、私自身も子どもの頃に感じたことのある、言葉にならない「できない」という感覚でした。

共感から生まれた行動

その時、私はすぐに正しい折り方を教えるのではなく、まず彼の隣に座り、しばらく一緒に静かにその牛乳パックを見つめることにしました。そして、彼の握りしめた手にそっと触れ、「難しいね。でも大丈夫だよ」とだけ伝えました。彼は少しだけ顔を上げ、私の顔を見ました。その瞳には、助けを求めているような、でも諦めかけているような複雑な感情が宿っていました。

私は、彼が感じているであろう「難しい」「できない」「情けない」といった感情に寄り添おうと試みました。それは、私が彼の立場だったらどう感じるだろうか、という想像から始まりました。そして、彼が求めているのは、単に完成品を作るための「答え」ではなく、「この難しさから抜け出したい」という気持ちへの理解と、前に進むための小さな「きっかけ」なのではないか、と感じたのです。

私は新しい牛乳パックを取り出し、彼の手の動きに合わせてゆっくりと、一緒に折り始めました。一方的に教えるのではなく、「ここをこうしてみようか」「次はどうする?」と問いかけながら、彼が自分で考え、自分で手を動かすことを促しました。最初はためらいがちだった彼の手が、少しずつ、しかし確かに動き始めました。一つ手順が進むたびに、彼の顔から緊張が和らぎ、わずかに自信の色が浮かんでくるのが分かりました。

小さな成功が教えてくれたこと

結局、その日彼が作った箱は、他の子たちのものほどきれいな形ではなかったかもしれません。でも、完成した時の彼の満面の笑顔と、「できた!」という小さな声は、私にとって何物にも代えがたいものでした。彼の隣で、彼のペースに合わせて手を動かし、彼の内面にある葛藤や喜びを共有できたその瞬間に、私は深い「共感」と、その共感から自然に生まれた「利他性」(相手のために何かをしたいという気持ち)の実践を感じることができました。

この経験を通じて、私は「共感」が単なる感情的な共有ではなく、相手の立場や感情を深く理解しようとする知的な努力であり、それが「利他性」という行動へと繋がる原動力となることを学びました。そして、利他的な行動は、必ずしも大きな犠牲を伴うものではなく、目の前の人の小さな困りごとに気づき、そっと手を差し伸べることから始まるのだということを実感しました。

内面的な変化と今後の活動

このエピソード以来、私はボランティア活動において、目に見える成果や効率性だけでなく、関わる一人ひとりの内面に寄り添うことの大切さをより意識するようになりました。うまくできない子、話しかけてこない子、他の子と馴染めない子、それぞれの「心の中」に何があるのかを想像し、一方的な支援ではなく、その子自身が持つ力や可能性を引き出すような関わりを心がけるようになりました。

これは、私のボランティア活動だけでなく、日常生活における人間関係においても大きな変化をもたらしました。他者との関わりの中で、すぐに答えを出そうとするのではなく、まず相手の話をじっくりと聞き、その感情や考えの背景にあるものを理解しようと努めるようになりました。共感と利他性は、特別な活動の中だけでなく、日々の小さな関わりの中にも宿るものであり、それを意識することで、自身の心も豊かになっていくのだと実感しています。

子ども向け工作教室での小さな一歩は、私の内面に静かな、しかし確かな変化をもたらしました。これからも、目の前の人々の声にならない思いに耳を澄まし、共感と利他性を羅針盤として、活動を続けていきたいと考えています。